クイズで紐解く電気工事法

番外編  第4回





 第1回から第3回を通じて、電気工事業をスタートさせる際に必要な登録申請(又は通知)手続の概要を、一通

り眺めてきました。実際には、他にもいくつか準備しなければならない書類があったり、開業した後に事業を展開

していく中で必要となる届出があったりします。それらの詳細につきましては、登録申請(又は通知)先の行政庁

(各都道府県知事又は経済産業大臣)がHPに掲載する案内情報を必ず確認して下さい。ルールの大枠は法律で決

められているので、どの行政庁でも基本は同じですが、運用上の細かい部分に違いがあります。また、同じ行政庁

でも、フォーマットを新しく改定することがあるので、実際に手続をする際には該当する行政庁の最新の情報に注

意する必要があります。



 今回は、前回までと異なり、その番外編として、電気工事業法の規制の外側に目を向けてみましょう。電気工事

や電気工事業(者)を規制する法律には電気工事業法の他に建設業法があります。そこで、これら二つの法律の規

制がどのように絡み合っているかを見ていきます。

 登録を受けて(あるいは通知を済ませて)電気工事業者になったあなたのもとには、黙っていても開業当初から

一定の数の仕事の依頼が舞い込んできます。もともと技量が高く腕が立つ上に人柄も良く人望があるからこそ若く

して独立できたのです。ここに至るまでの間、既にあなたは業界内で、相応の実績と人脈を築き、評判と信頼を勝

ち得てきたはずです。独立前に培ったこれらの貴重な財産を礎に、今後は一個の事業者として、依頼案件を一つ一

つ着実に請け負っていくことになります。

 そうこうしていくうちに月日は流れ、事業が軌道に乗って安定してくると、創業時は個人事業者としてスタート

した場合でも、どこかでタイミングを見計らって、株式会社や合同会社に事業形態を切り換え、経営の効率化を図

ることになるでしょう。いわゆる「法人成り」です。事業規模が拡大すれば、当然ながら金融機関との取引も重要

度を増してくるので、それも一つの選択でしょう。

 そうなると、やはり勢いがつくのか次第に一件当たりの工事請負代金の額も大きくなってくるものですが、その

際には、ぜひ500万円という金額に注意するようにして下さい。電気工事の請負代金の額としてこの金額をどう

見るかは人によるでしょうが、一件当たりの工事請負代金の額が500万円以上の電気工事と、500万円未満の

それとでは、扱いが大きく異なります。同じ電気工事でも全く別物と考えるくらいでなければなりません。

 その理由は、一定規模以上の電気工事が、建設工事の一種として扱われ、建設業法の規制を受けることにありま

す。建設業法は、500万円未満の電気工事を「軽微な建設工事」と呼んで黙認しますが、500万円以上になる

と「建設工事」の一種として扱い、建設業許可を受けた「建設業者」以外による請負いを認めません。そのため、

電気工事業者が500万円以上の電気工事を請け負う場合にも、建設業の許可を受ける必要があるわけです。



 一件当たりの電気工事請負代金の額 < 500万円 
⇒ 「軽微な建設工事」だから建設業許可は不要
∴ 電気工事業者であれば誰でも自由に請け負える


 一件当たりの電気工事請負代金の額 ≧ 500万円 
⇒ 「建設工事」の一種だから建設業許可が必要
∴ 建設業許可を受けた電気工事業者でないと請け負えない




 しかし、前回(第3回)少し触れた通り、建設業法が定める建設業許可申請のハードルは高く、許可を受けると一

口に言っても、それほど簡単なことではありません。したがって、ここから先は、事業主であるあなたの選択にかか

ってくることになります。

 同じ電気工事業者でも、一件当たりの請負代金の額が500万円以上の電気工事(以下「建設工事に該当する電気

工事」と呼びます。)を積極的に扱う事業者を目指すか、それとも、その種の工事にはあえて触手を伸ばさず、地元

で地域に密着した電気工事全般(以下「一般用電気工事」と呼びます。)を広く扱う事業者を目指すか、の選択です。

 自分の事業を将来どの方向に展開していきたいか、というおおよその展望は、たとえ途中で軌道修正の必要に迫ら

れることがあるとしても、事業スタートの時点で描いておくべきでしょう。なぜなら、建設工事に該当する電気工事

を目指す場合は、たとえハードルが高くても、早晩、必ず建設業許可の申請をすることになるため、できるだけ早い

段階からその準備に着手しなければならないからです。反対に、一般用電気工事を事業の中心にすえる場合には、全

く別の配慮と工夫が求められることになります。どちらの選択肢もそれぞれに大変魅力がありますし、必ずしも両者

を二者択一的にとらえる必要がないように思われるかもしれませんが、やはり経営をしていく上においては、軸足を

どちらか一方に置く必要があるのです。

 そこで、最後に、建設工事に該当する電気工事を目指す皆様を対象に、将来の建設業許可申請の目的達成に向けた

留意点(対策)をいくつか紹介したいと思います。建設業許可申請にも、カテゴリーやバージョンがいくつかありま

すが、①営業所として本店(「主たる営業所」)だけを置いて、支店(「従たる営業所」)を置かない場合 ②建設

業許可申請を初めてする場合 ③許可を申請する建設業の業種が電気工事業だけである場合 のすべてに該当するケ

ースに限定して話を進めます。[ なお、一般用電気工事を中心にすえた事業展開を目指す皆様を対象とする話は機会

を改めて別途させていただく予定です。(サイト『法人格なんかいらない! 町場の地域密着型LLP』) ]



●建設業許可申請までどのくらいの期間を要するか

 電気工事業の起業時から最低でも丸5年以上、理想的には丸6年以上経過した時点で申請する


 建設業の許可を受けるためには、その申請をする事業者に「経営業務管理責任者」となる者(経営責任の担い手)

 がいなければなりません。事業主(社長)であるあなた自身がそれになるべきですが、建設業での事業経営の経験

 が最低でも5年以上ないとなれません。「建設業での事業経営の経験」と言っても、既に許可を受けた建設業者で

 の経験である必要はないので、登録(又は通知)電気工事業者として5年以上の経営経験を積んでから申請すれば、

 十分に要件を満たし、経営業務管理責任者になることができます。



●手持資金に条件はあるか、あるとしていくらか

 自己資本が必要で、金額はとりあえず500万円以上


 建設業の許可申請が電気工事業の登録申請等と大きく異なる点の一つが、やはりお金(資金)に関する要件の有無

 になります。建設業ともなるとどうしても取引金額が大きくなるので、最低限度の引当てないし信用力として一定

 額以上の自己資本が求められます。許可申請に至るまでの5年ないし6年の電気工事業経営で勝負する覚悟が必要

 です。



●ヒト(人的資源)としてどのような要件があるか

 建設業許可を受けるために必要なヒト(人的資源)の要件は「経営陣」と「技術陣」の両輪


 経営面における人的要件は、前記の通り「経営業務管理責任者」になることができる建設業経営の経験者がいて、

 しっかりと事業経営を管理する体制ができていることです。他方、技術面については、営業所に常勤の「専任技術

 者」を設置します。専任技術者に求められる要件は、電気工事業者における主任電気工事士と同じです。やはり、

 事業主(社長)であるあなた自身が先頭に立ってそれに就任するのが一番です。同一の者が同時に経営業務管理責

 任者と専任技術者とに就任して両者を兼ねることは、それぞれの要件さえ満たしていれば問題なく認められます。



●建設業許可申請に至るまでの5、6年の経過をアピールする方法・材料は何か


 よく言われる通り、事実とその証明は別物です。また、証明にも容易で確実な方法とそうでない方法とがあります。

 長い年月にわたってがんばって成果を積みあげても、申請手続の中で許可行政庁(各都道府県知事又は国土交通大臣)

 にそれをアピールできなければ残念な結果に終わります。申請手続は、申請書と確認資料等の添付書類とでする書面

 審査なので、書類がほとんどすべてです。だから、どんなに忙しくても、書類の整理・保管は日頃から抜かりなく行

 うことが重要です。特に事実証明に欠かすことのできない客観性の高い書類は、いざというときに大変有効なので、

 絶対に紛失しないようにしましょう。そのあたりの留意事項を「別表」にまとめてありますので参考にして下さい。





















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